歌、ディーゼル、鳥、北海道9日間#3

3日目 6月9日(月) 札幌-小樽

 道内移動開始の日。まずは札幌から小樽へ、1時間もかからぬ小移動。だが5時半には目が覚めてしまい、そのまま寝床で句会用の俳句を作ってメール。1年ほど毎月お世話になっている句会が明後日11日にあるのだが、その時はまだ北海道にいる。そのため「欠席投句」という形での参加とさせてもらう。

 句会は楽しい。誰が作ったかわからない句の中からお気に入りを選び、褒めたり喜んだりちょっと突っ込んだりして、最後にやっと作った人がわかる、というシステムは「優しい(アナログゲームの)人狼」という人もいる。人狼の嘘をついたり人を疑ったりの部分がなくて、「実は私でした!」と名乗り上げる快感だけがある。システムだけでも楽しいのに、今、ご縁がある人たちは作品を読む力があって、表現が明るくて、たまに「こんなにええ人たちと座を囲んでええんじゃろか」と考え込んでしまうくらいだ。そんな座組がうれしくないはずがない。休まず参加したかったけれど、はじめて句会より優先してしまったのがこの旅だ。

 

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屋根の下にディーゼルの匂いと音がこもる札幌駅は何度来てもいい。

 

 

 小樽へ向かう快速エアポートに乗っていると、近くの座席から「さすが北海道はカラスも大きいね!」との声が。窓の外にはウミウがいた。カラスは海に潜らない、と念を送る。

 昼前に小樽着。小樽を訪れるのは2回目、以前の来訪は冬の早朝。新潟よりのフェリーで上陸して市場で朝食を食べ、日の昇らないうちに去ってしまった。真っ暗だったな、という印象しか残っていない。

 チェックインまでは時間がある。宿に荷物を預け運河を目指して歩く。

 

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北海道初の鉄道路線手宮線の廃線跡

 

 小樽運河を40分かけて周遊する小さな観光船に乗る。

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水運の街は水上から眺めたほうがより実感がある。

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まずは南運河(観光名所のほう)を回り…

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 橋をくぐって小樽港へ出る。ホーンの大きな音が鳴る。

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北海道警察所属のいしかり。ガイドのお姉さん曰く、アルミでできた高速船で、これに追われたら大概の船は捕まってしまうそう。

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タグボートたていわ丸。大型客船でも牽引・旋回させてしまうとか。

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再び運河に戻ってきて今度は北運河方面へ。この建物は北海製罐の倉庫で、運河からダイレクトに荷の揚げ降ろしができるようエレベータがついている。(中央のリフトがそれ)

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おりしもウミネコの繁殖シーズン。灰色の毛玉がヒナ。このほかイワツバメの巣やドバトの巣を教えてもらう。

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乗っていたのは小さな舟。それだけに運河を身近に感じられた。

 40分の周遊はちょうどよい長さで、真っ暗なだけの小樽の印象がこじんまりとした水の街、という印象に置き換わる。

 

 船から降りたあと、改めて自分の足で運河沿いを歩いてみる。

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船からはこんな風にみえていた、びっくりドンキーも…

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 表からみればこんな感じ。店内も見たかったけど、小樽まできてびっくりドンキーもなあ。

 

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隙間大好き。

 

 平日の月曜だというのに小樽は人が多い。年配の方か外国人がほとんど。みな連れ立ってそぞろ歩きを楽しんでいる。

 

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 空腹に負けて寿司をローリング。ヤリイカ、ホッキ貝、ますこの軍艦、生のホッケと北っぽいやつを狙い撃ち。

 

 チェックインまでまだ時間がある。ウミネコのヒナを再確認すべくポイントに戻ったときのこと。ウミネコが何かを威嚇している。周囲のウミネコもみな警戒している。カラスか! と思って近寄ったら、ハープ弾き林太郎さんと、今日から合流のバイオリニスト菅野朝子さん(以下菅野さんと表記)のお姿。よく見たら、ウミネコにめちゃくちゃ怒られながら、カメラでヒナに迫っている人は吉良さん!!

 ………………。

 聞けば、浮かれて「船で見たウミネコのヒナちょうかわいい♪」的なことを書いた、私のtwitterをたまたまご覧になって、いらっしゃったのだそうである。ヒナを育てている最中の鳥に寄ってはいけない、というのはしょせん野鳥を観察する人間だけの常識。だからこそ、野鳥の営巣地点などをネットに書いてはいけないのだけれども、そんな基本も守れぬ自分に心底へこむ。へこみつつ「ヒナを育てている間は放っておいてあげてください」と、厚かましくもお願いをする。

 「また夜に」とご挨拶をして、適当な方向へ歩き出す。

 

 歩きながら観察圧という造語のことを思う。観察圧とは人間に観察されるストレスによって、その対象である生き物の振る舞いが変わることである。過度にストレスがかかれば、その生き物はそこに訪れなくなったり、繁殖中の場合は育児や巣を放棄してしまう可能性もある。

 鳥は人間のことをよく見ている。観察されることに敏感な生き物だ。鳥が好きだから自然と目に入るし、足が止まる。けれどもストレスを与えたいわけでもない。観察には常にジレンマが付きまとう。

 観察は傷つけてしまうのかもしれない。でも、知らなければ好きになることもできない。知らないものは、その人の世界になかったことになる。世界にないものは……消えても、わからない。そんなのは、私はいやだ。今までたくさんのものが消えたことに気づかず見過ごしてきただろう。縁があって好きになった鳥なのだから、私はもっと知りたい。そして、わずかばかりでも誰かに伝えたい。

 

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また道に迷う。帰り道は急坂を上って下る羽目に。小樽は坂の町でもあった。

 

 チェックインして大浴場で手足を伸ばし、ついでに洗濯をする。3日目ともなれば1回目の体力低下がきているころだろうと予測し、ちょっといいビジネスホテルにしてあった。後から思えば全旅程中で一番幸せなお風呂だった。

 

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ライブ会場近くのスナック街。サイファーに黒騎士……店内が想像つかない。

 

 小樽のライブ編成は「あらキラリンカン」 ゲストのカンテレ奏者のあらひろこさんと、ギターの吉良さん、ハープの林太郎さん、そして本日よりバイオリンの菅野さんが合流。

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左に見えるのがフィンランド撥弦楽器、カンテレ。

 

 最初に、まずあらひろこさんのソロより。はじめて聴くカンテレの響きは懐かしさを感じた。フィンランドの伝統的な楽器にこんなことを言っていいのかわからないが、FM音源っぽいのだ。音色はハープシコードに似ている。よく響く、なのにクリアー。ふと、ティル・ナ・ノーグを思い出す。

 二番手は菅野さんと林太郎さんのユニット「ラノッホ」。ひさしぶりに聴く菅野さんのバイオリンはすっと背筋が伸びる思いがする。

 次は吉良さんがソロで2曲。そして、林太郎さん、菅野さん、が揃って、やっと今回のツアーのメインユニット(?)「キラリンカン」、札幌から数えて4ステージ目にして揃い踏み。軽快なリール、ただただ胸に迫る「夕焼け」、柔らかい声と声の重なりにアグレッシブなバイオリンの間奏のギャップがたまらない「ラ・フェット」……と、ぞんぶんに堪能していたところで、「五つの橋」の時にちょっとしたやり直しが発生。zabadakのライブではやり直しはよくあることなのだけれど、そこで林太郎さんが、実は東京から観に来ていた、みとせのりこさんをステージに呼ぶ! みとせさん「五つの橋」を歌い上げる! オリジナル曲を歌われている時とは違って、どこか上野洋子さんを思わせる歌い方に三拍子の手拍子にも思わず力が入る。

 その熱を残したまま、jig、菅野さんも立ち上がった「夢を見る方法」、「EasyGoing」と盛り上がってからの、ラストは4弦揃い踏み。カンテレ、ギター、ハープ、バイオリンの重なりは、昨夜札幌で聴いた3つの音の重なりとはまた違う厚み、広がり。たった2曲なのが惜しまれる。

 アンコールは「光降る朝」。吉良さんの弾くピアノとともに客席も歌う。後ろからみとせさんの声が聴こえる。なんて贅沢なアンコール。

 

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 終演後。外の草地からずっと鳥の声が聴こえていたけど結局正体はわからずじまい。

 

 熱に浮かされたような小樽の夜だった。

 そういえば、朝、札幌でこんな句を作った。

夕焼けや目を伏せて弾く抱いて歌ふ

  明日行く留萌ではこんな情景に出会えるはずだ。