9/6「句会と想像と言葉と」
ゲーム+句会イベント「句会と想像と言葉と」に参加してきた。
主催は、句会でお世話になっている俳人の佐藤文香さんと、東京マッハなどのイベントでお見かけするたび「萌える……」と呟かずにはいられないゲーム作家の米光一成さんのお二人。
会場は床にクッション敷いての車座。多目的ホールに集められた中学生みたいに気安い気分です。会の様子は道路からも丸見えで、大人が30人ほども集まって笑ったり、何かを囲んでいるところをしげしげと眺めていく通行人、多数。
イベントは二部構成。前半は「想像と言葉」パート。米光さん作「想像と言葉」というアナログゲームを4班に分かれてプレイ。
「想像と言葉」は、素っ気ないほど簡単なゲーム。コンポーネントは、40枚の言葉チップと木製のポーン、ルールを記した紙が1枚。
ゲームの勝利条件は「プレイヤーは場に提示された3つの言葉から、1つの言葉を連想する。その言葉が他のプレイヤーと同一であれば勝利点が獲得できる。ゲーム終了までに勝利点をもっとも多く得た人が勝利者となる」
また、裏勝利条件として「想像王」というものがある(後述) プレイ人数は3人以上であれば可能だけれど、5~7人程度が目安。
ゲームの手順は、基本ルールとイベントルールで違いがあるので、イベントルールのほうを記載。
1)初回の親を定める。親は袋から3枚言葉チップをドローし、場にセット。
2)プレイヤーは言葉チップに記された3つの言葉から、1つの言葉を連想し、隠れてメモ。この際、親だけは2つ言葉を書くことができる。
3)全員記入を終えたら、いっせいにメモを公開。言葉が同じだった人がいればそれぞれ勝利点1を獲得
4)言葉の一致はなかったが、特にすぐれた発想をした人には、場の協議で「想像王」を与えることができる。想像王に選ばれた人は、想像王点1を獲得。
5)点数処理が終わったら、時計回りで隣の人に親が回る。人数分繰り返し、親が1周したら終了。
6)もっとも多く勝利点を獲得した人が勝者。もっとも想像王点を獲得した人が想像王となる。
こんな塩梅。なお、勝者と想像王、どっちが上ということはない。勝者は勝利を得、想像王は名誉を得るといったところ。
ルールとしては大変簡単。けれど、いざ取り組んでみると存外に難しい。たとえば、うちの班の最初のプレイで出た言葉。
「目玉」「爆発」「つるつる」
この3つの言葉から浮かぶ言葉はなんだろう。
私は、「岡本太郎」
家の者に聞いたら「目玉焼き」
……意外に被らないものである。
ブレインストーミングにもよく似たこのゲーム、初対面同士でもさくさく遊べる。その人から出てくる言葉に、人となりを思ったりもする。そうか、このキーワードで「BL」が出るんですね……へぇ……。
軽く2周したところで、各班から代表選手を2名選出し、8人による名人戦。私もちゃっかりと名人戦に参加。
名人戦は特別ルール。プレイに参加している8名人のほか、会場全員も想像に参加。会場の人と発想した言葉が同じであれば、勝利点が貰えるルールとなった。
「想像と言葉」の肝は「勝者」と「想像王」が分かれていること。「勝者」はみんなが想像する言葉がわかるシンパシーの人。「想像王」はみんなが思いつきもしない、ワンダーな言葉を想像する人。俳句は「想像王」のほうがかっこいいジャンルかな。だけどゲームとしての勝利条件があるなら、そちらを狙うのがやはり王道。「シンパシーの句よりワンダーの句を選べ」と伝授されている空き地句会の精神はひとまず置き、ズブ汚く「勝者」を目指してのプレイングを目指した。
名人戦メンバーと会場の人を改めてみる。東京マッハの客席でお見かけした気がする方、俳人として活動されている方々、たぶん米光さん講座関係の方々。発想は散るだろう。誰と気脈を通じさせようか。
名人戦は全6戦。
■「球」「カエル」「(※ここ忘れました)」
散々悩んで、「バイオスフェア」
こんな言葉で誰かとかぶるわけはない、のはわかるのだけれども、思いつかない場合には気脈が云々以前に、とにかく何か絞り出さなくちゃいけない。ほかの人の回答を聞いていると、結構2ワードのみで想像している人が多い。
■「空」「ばか」「毛」
で、「空飛ぶかつら」
たぶん、文香名人なら禿頭系で来るんじゃないかな、という予感があった。ただ、つい「空飛ぶ」と蛇足をつけてしまったのは、及び腰のなせる技。次はワンワードできっちり想像しようと反省。文香名人は「ヅラ」で、いちおう一致。
■「遊び」「探す」「可愛い」
は、お題が出た瞬間、私の左隣2名人と、会場のあちこちに「あれだ!」っていうピンとくる感覚が満ちる。
迷わず「かくれんぼ」
案の定、これは同案多数で、隣の2名人と一緒に、10勝利点ゲット。でかい。右隣、同じ班からやってきたソウダ名人が「ディグダグ」と答えていたので、その時の客席の反応を見つつ、ゲームネタはあの客席のお兄さんにあてられないかな、とイメージを練る。
■「くるくる」「新」「つながる」
で、狙いにいって、「ぷよぷよ」
これは不発。最初は「新」を強調するあまり、ぷよぷよ痛とかFEVERとか、と考えていたけど蛇足なので消す。シンパシーに自己満足小ネタは不要。
■「美」「箱」「逆転」
では、「ルービックキューブ」
これはいかにも中途半端で、シンパシーもワンダーもない。ほかの名人から出た「鏡」のようなキレがない。文香名人が「アンチエイジング化粧品一式」を出した瞬間、隣のペペ女名人が笑い過ぎたあまり、床にごつん、と頭をぶつけてた。
■「黒」「円」「キス」
ラストなので2つ書いていい特別ルール。「チョコレート」「iPhone」とする。
苦しい。しかし同じ班の与儀さんが「チョコボール」と答えていて、これを同一の発想とみなして貰え、勝利点ゲット。与儀さんありがとうございます!
全6プレイを経て、勝利点をもっとも多く得、「名人王」の座をゲットとなった。やったね。やっぱり「かくれんぼ」にのったかどうかが勝敗を分けた。
「名人王」の商品として、米光さんより「想像と言葉」を頂戴しました。
休憩を挟んで、後半は句会パート。句会は2句出しで、1句は「月」、1句は「くるくる」を題にしたもの。欠席投句なども含めて総数58句。選句は1句特選、4句並選。今回のイベントに投句した句は既発表作として扱ってよいとのことなので、私が選んだ5句をご紹介。斉藤沙魚選!
☆特選
「満月も見たし自首しに行こうかな」 ペペ女
東京マッハにいらしている方が多かったので、
「おい小池!花見するから来い早く」 千野帽子
を知っての作ではないかと踏んだ。春に花見を楽しみ、秋に中秋の名月を楽しんだ彼がそろそろ自首しようかな、と考えた句だと解釈した途端、とても楽しくなってしまった。こういう読みは邪道かもしれないけど。1人1回、句に対して言える権があったので、その話をしたのだけれど、よく考えたら特選に選んだって言い忘れてた気がする。
※追記
書き忘れてましたが、ペペ女さんの師匠は千野帽子さんなのだそうです。
○並選
「秋澄むや何気なく来るフリスビー」 二酔
これはフリスビーを投げている当事者たちではなく、その脇にいた通行人目線ととった。心地よい秋の大気の中、何気ないささやかな事故とも呼べぬ緊張。
「満月やふきん二枚を漂白し」 泉かなえ
二枚である必要があるか、まとめて洗うなら五、六枚じゃないか、という指摘もあったけれど、私は二枚で良いと思った。一枚は食器用、一枚は台などに、みたいに使い分けている人が、その日一日の始末として、二枚の布巾を漂白する。いわゆる丁寧な暮らしをしている人の句のように受け取った。そういう人にはきっと満月が似合うし、また、満月の光には殺菌作用もありそう。
「紅葉野に吾を縛れる仔犬かな」 がにまむし
あんまり俳句っぽくないな、と思ってスルーしそうになったけど、よくよく見たら景がおかしい。題が「くるくる」であることを考えると、散歩中、子犬がはしゃぐあまり作者の回りをぐるぐる回って、リードでその身を絡めてしまったと思われる。紅葉野に、赤い犬の紐に絡め取られた人ひとり。足元にははしゃぎ疲れた仔犬。
「夏の空デパートちょっとだけ動く」 与儀明子
小学生のとき、中庭に人が集まっているので何ごとかと聞いたら、「校舎が倒れてくる」とみな口々に言う。言われて空を見上げれば、雲の流れるにつれて、校舎のふちが次第にこちらに迫ってくるようでもある。始業の鐘がなるまで、皆でわいわいと「倒れる」「倒れない」と言いながら空を見上げた。その時の空を思い出した句。夏の空なら、背の高い田舎のデパートくらいすすっと動かしそう。
ちなみに私の投句分は
「名月やメデューサの首、蟹、兎」
「長き夜にヒダリマキマイマイ恋矢(れんし)逢ふ」
でした。
きっちりと作りこまれたイベントにはない、気安さに満ちた楽しさのある時間を過ごせた。4時間分の長さが圧縮もされず引き伸ばされもせず、きっかり4時間分あるような。
今振り返ってみると、「想像と言葉」は、シンパシー、共感の勝者(勝利者)と、ワンダー、驚き、感嘆の勝者(想像王)を選出するゲームであった。
そして句会パート、文香さんが選句の時に「シンパシーの句よりワンダーの句を選ぼう」ということをおっしゃられていた。シンパシーとは何か、ワンダーとは何か、意外に掴みにくい。しかし、事前に「想像と言葉」をプレイしていたことで、ワンダーとシンパシーについて、より実感を持てるようになったのではないか。
句会も「想像と言葉」も、ワンダーとシンパシーの配合でできている。もちろん、それだけじゃあないんだけど。