心はいつもみちのくにあり(2011.3.25テキスト再掲)

「心はいつもみちのくにあり」

そう言ったのは、みちのくプロレスを離れてWWFに参戦する時の新崎人生だったかと思う。

僕は、明快な故郷を持つタイプの人間だ。
東京に住まうようになって10年になるけど、やはり一等いとおしい街は仙台であり、いつまでも魚くさいアニメイトや、広瀬川のそばにある仙台模型や、夢メッセという港のそばのホールでの同人誌即売会なんかが根底にある。

面白いもので、東北の人間はどこかではっきり東北と東北でないものの区別をつけているようだ。北茨城よりいわきの方がぐっと近しく感じる。隣接してんのにね。

大震災が起きてから、毎日のようにテレビに慣れ親しんだ街や地名が映る。
仙台だけじゃない。
多賀城、名取、石巻気仙沼東松島、南三陸
宮城だけじゃない。
陸前高田、山田に大槌、双葉、浪江……。

松島町民体育館のふく面ワールドリーグで見たダッコchanの壁伝い三角飛びは本当に素晴らしくて、南三陸つったら志津川町民体育館で50人くらいしか観客のいない試合、サンシャイン浪江で屈辱のデルフィン股くぐり事件。
古いみちプロ話ばっかりかよ!

被災地

という言葉で、引っ括られることを受け入れるには、僕はあまりに東北を知りすぎている。
かといって、傷を負った人の側に立つにはあまりに、今、安穏としすぎている。計画停電、まだ一度も当たってません! 僕、23区外住人なんすけど。ちょっと都会民ぶっていいべか? いっちゃね? おらほさ停電さ経験してねよ、こりゃ千代田区も同然だっちゃね?


会社の人間が悼む。私たちはユーザーのために、出来うる限りのことをしましょう。何ができるかを考えましょう。名取には仙台支社の人も多く住んでいました。津波で親を流された社員もいます。私たちも傷ついています。私の母は茨城で被災しています。云々。
おまえは名取を知ったかもしれない。それは宮城県の、仙台の南側に位置する空港のある小さな市で、仙台のベッドタウンで、名取川って川があることも、僕の知らない緯度経度もそらで言えるのかもしれない。
だけど、おまえは名取を知らない。僕が高校のマラソン大会で走ったサイクリングセンターのことも、閖上の朝市の汁の美味さも、ジャスコのそばにはおもちゃのビーヤングやスリランカセンターって名前のカレー屋があることも、山側は筍の産地だってことも、4号バイパスの荒れた舗装も、仙台市の南部に属する僕のかつての家が、しょっちゅう「名取」って言われてて、僕がキー! 仙台だっつうの! ってつどつど言い返してたことも。
おまえの言う名取には、実がない。皮ばっかりで、僕の名取を悼むな。なあ。なあ。
おまえのいう名取は、「被災地」かもしれないけど、僕の名取は背骨の先に繋がった街なんだ。名取だけじゃない。仙台も利府も色麻も亘理もみんな……みんな……。

けれど、僕にも悼む資格はない。
東北を離れて10年経つ僕は、仙台にパルコのあることをしらない。とらのあながあることも、ロフトがあることも知らない。僕の仙台にはまだジャスコがあって、イオンがない。まだステンドグラスの前では伊達政宗像ががんばってる。フォーラス前には水時計が残ってる。


僕はただ、胸に故里を抱きながら、離れたところで他人の口から飛び出す聴き慣れた地名に勝手に傷ついている。傷つく資格だって、ないのに。



***



僕が仙台出身なことは、話のつかみとして使いやすいから回りの人間は結構知っている。普段は便利なツールのひとつに過ぎないと思っていたが、今回、ずいぶん多くの人から安否を心配してもらった。

「皆さん、ご無事でしたか」

僕は言う。

「実家は無事でした」
「よかったですね」

問うた人が言う。こだまですか、いいえ。


僕は仙台で24歳まで過ごしてきた。仙台に、東北に、どれほど連なっていると思う。どれだけいるのかよくわからない親戚、同級生、先輩、後輩、かつての同僚、食えない社長、いい上司変な上司、ハンドルやペンネームしか知らない友人たち、TRPGコンベンションで卓を囲んだ人たち、ゲーセンで台を挟んで顔を見ずに相対した人たち、並んでみちプロを見た人たち、即売会ですれ違った人たち、その他、数多の一緒にいたはずの、多くの、多くの……。

もう、連絡は取っていない人たちがほとんどだ。

だから僕は、彼らの安否に胸を痛めれど、それを知る方法はないし、またそれを知ってどうこう思う資格もない。

心配することすら無意味。

それが縁を切る、ということなんだ。


それでさ。
皆さんって、どこまでを指すの。誰までが無事ならいいの。

人と人を分け隔てるその線を、どうして引かなくちゃいけないの。

僕は仙台七夕の雑踏ですれ違ったかも知れないすべての人が、生きてたら良かったのにって本気で思うよ。

でも、それはきっと叶わないことだから、それはわからないことだから、僕は、続けて言う。

「だけど、誰かは津波で流されてるかもしれない。もう、どうしようにもない」

聞いた相手の顔が曇る。
悪趣味な答えなのはわかってる。

安否てさ、安全は生きてるってことだろうけど、否、のほうは死であり、行方不明なんだぜ。
僕に今わかることは、慌てて葬式をあげに行かなくて済んだってことだけ。



心はいつも、みちのくにあり。

たぶん七夕の頃に行くから、それまで、待ってて。
 
(初出:2011.3.25)
 
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昔、mixiに掲載したこの日記です。古いテキスト晒すのつらい! 
これが「猫の都合をきいてきて」の大元です。
今回、「2017年文学フリマDebby Pumpアワード※個人の方が選んでくださる2017年度に文学フリマで頒布された同人誌に対しての賞。 の「最優秀小説冊子賞」に選出していただいて、うーん、なんでこの小説書いたんたっけなー、とか考えてたら存在を思い出したのでした。
 
これと、今期間限定で全文公開されている「猫の都合をきいてきて」を合わせて読むと、だいたい頭のほうのエッセンスは上記の日記に凝縮されてることがよくわかります。つらいな!

どうしても書けなかったペーパーの代わりに

先にお伝えした通り、10/28(土)、テキスト系同人誌即売会「Text-Revolutions6(通称テキレボ)」にサークル参加します。

 

現在の予定としては、これが最後のサークル参加です。11月の文学フリマ東京は申し込んでいませんし、来年のテキレボも今のところ参加するつもりはありません。

というか、まあ、同人誌即売会にサークル参加するのは、今回をもってしばらくお休みにするつもりなのです。

 

つもり、つもり、と歯切れが悪いな。けっこうさみしい気持ちもあるから、どうしても予防線を張っちゃうんだよ。

 

 

テキレボとの出会いは、2014年の年末。テキレボは同人誌即売会だけを指すのではなく、テキスト同人誌の感想サイトも運営しています。そのほかにも小説プロット会(今はテキレボが忙しくてお休み中らしい)を開いたり、テキスト系同人の全般をサポートする団体って感じです。

 

文学フリマで売っていた同人誌の感想を、感想サイトとしてのテキレボに投稿してくださった方がいて。(現在削除されていて読めません)

で、テキレボ運営の方が「こういう感想きてるけど掲載していいですか?」って連絡くれたんです。そのとき、感想サイトのテキレボを見て回ったら、同人誌即売会のテキレボ1がまさに参加サークル募集中で。

その頃、私は文学フリマでの活動に手ごたえのなさを感じいて、「もう同人誌作るのいいかなー? ウェブ小説も面白そうだしー?」とのんきなことを思っていたのですが、これも何かの縁かな、とテキレボ1にサークル参加を申し込みました。軽率に。

 

テキレボ名物のひとつに「テーマアンソロジー」という企画があり、サークル参加者限定で、お題に沿った4000字掌編を書き、それをアンソロ本としてまとめて頒布するという剛毅な企画があります。

いわば、テキスト屋にとってのサークルカットです。

1のお題は「はじめて」

人と被らない「はじめて」がいいなあ……と散々首をひねって書いたのが、東日本大震災発生数日後の、東京の隅っこの様子を描いた「はじめての高尾山」

その後、テキレボ1では「はじめての高尾山」の続編短編をコピー本にして出しました。

その、アンソロでの作とコピー本に、いくつかの感想を貰ったんです。会場で直接伝えてくださった方、あとからネットで言ってくださった方。

 

よく「感想は作家のやる気になります」なんておっしゃる方もいますし、それ自体を否定はしませんが、私は、そんなに感想そのものは求めていないほうでした。他人をモチベーションの源泉にしていたら、それが枯れたとき何もできなくなってしまう。そんなの怖い。

ただ、感想はなくても、読者、読んでくれる方の存在はやっぱり必要で。

なぜなら、私は「小説は誰かが読むことで、はじめて小説として完成する」と考えているからです。だから、発表する必要があるし、読者と出会う必要がある。

 

文学フリマでは、買いに来てくれる人の多くが知人、未知の読み手と出会える実感が乏しく、そもそも部数も動かなかった。むろん自分に魅力がなく、自作を売るための工夫がなかった、というだけの話です。それで手ごたえのなさを感じるというのも責任転嫁ではあります。

 

それでも、いつもの調子で即売会に参加したら、テキレボは無料配布の短編コピー本を数十人の方が貰っていってくださった。その事実に、ここなら読み手と出会えるかもしれない、という予感がありました。その直感は間違っておらず、自分にしては望外の感想や「読みました」というネットでのリアクションを見つけられたのでした。

 

 

それから、年に2回のテキレボに欠かさず参加。アンソロジーに投稿する作を連作にしたら、いつかテキレボ投稿作だけで連作短編集が出来るんじゃね? 総集編とか出せたら面白いのでは? と思いつき、テキレボアンソロとテキレボ合わせの無料配布コピー本は、ずっとシリーズ連作という形にしました。

それはつまり、先述の「はじめての高尾山」の続きを書き続けるということで、奇しくも私は東日本大震災の及ぼしたものと、向き合うことになりました。

福島県楢葉町を皮切りに、福島、宮城、岩手。東北を訪ね歩き、半年に1度のテキレボに合わせてアンソロ1本、コピー本1冊分を書く。

2015年3月のテキレボ1から2017年4月のテキレボ5までちょうど2年、テキレボに支えられるように書き続け、最終的に「猫の都合をきいてきて」という一冊の本にまとまりました。

この本は、テキレボなくしては生まれなかった本なのです。

テキレボ主催の御拗さん、小泉さん、高検索マスコットれぼんちゃん、そして参加者、読者の皆様、私に一冊の本を書きとおさせてくれて、本当にありがとうございます。

 

私のほかにも、「即売会があるから間に合わせで捻出して本作った!」「アンソロ合わせでとりあえず書いた!」という参加者はたくさんいると思います。一つの場が実に多くの作品を生む土壌となっている。即売会、すごいな。

 

 

 

 

だからまあ、ずっとテキレボには出たいな、と思っていたんです。

だけど、去年の夏に、私にとっての東日本大震災と同じくらい、えらいことが起きたんです。東日本大震災が私の身体の故郷を傷つけ揺るがした出来事であるなら、そっちは精神の故郷が大きく崩れ揺らいだような出来事。

 

去年の夏以降、どうしてもその出来事が頭の中をずっと占めている。その夏に無理に書いた短編も、どうしてもその出来事を下敷きにしてしまう。

「もう、書けないのかもしれない」

去年は何度も一人でずっとそう悩んでいました。「猫の都合~」は先に作り上げていたキャラクターたちと東北に支えられて、なんとか書けた。

けど「猫の都合~」の完結後の今年の夏、いざ新しい話を書いてみようと思うと、どうしても、うまくいかない。1年経っても、その出来事から離れられない。

結局、テキレボ6分のアンソロも、その出来事のイメージを引きずったまま書いて提出してしまいました。

「もう、書けないのかもしれないなあ」

そう諦めて、テキレボ6でいったんサークル参加をお休みしよう、と決めたのです。

 

その代わり、その出来事と気長に付き合おうと思います。

東日本大震災の話を書き、自分の中で一つの落ち着きを得たように。といって、それも書くのに2年かかったし、何年かかるかわかりませんけどね。

 

テキレボ6の新刊無料配布「崖底で叫ぶ歌は空へ届かない」は、そうした自分の心境をまとめた本です。

その本にも収録した、テキレボアンソロ投稿作「醤油祭のはじまり」は「推しの人、大切な人がいなくなったら、みなさんはどうしますか?」という問いを内包していました。

その自分の問いに対する答えが「崖底で叫ぶ歌は空へ届かない」という2000字程度の短い作です。「さよなら木霊」という、他の本の続編も兼ねているので、そちらの作を読んでいない方にはわかりづらいところもあるかもしれません。

「さよなら木霊」はカクヨムで半分読めます。

さよなら木霊(斉藤ハゼ) - カクヨム

明日の頒布数も1冊!しかないので、後日の全編ウェブ公開も検討しています。

 

 

といったような内容を、本当は明日ペーパーにしてお配りする予定でした。

ただ、いざペーパー用と意気込んでテキストエディタに向かうと、もう目もあてられないほど書けなくて、ストレスで体調まで崩してしまって、やめたんです。

 

でも、前日の夜の今になったら、なんか急にするすると書けてしまって。なので、このままblogで公開にします。

 

では明日、浅草でお目にかかれれば幸いです。

C-19「やまいぬワークス」でお待ちしております。

10/28テキストレボリューションズ6参加します

10/28、テキスト系同人誌即売会「テキストレボリューションズ6」に参加します。

配置はC19「やまいぬワークス」です。

 

◆頒布物について

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◆新刊について

・無料配布 300字SS掌編ポストカード<ご当地菓子巡り企画参加作品>

・無料配布 A5 12頁程度の掌編 か 小説以外の読み物

の2つをご用意する予定です。努力目標! 

その他、詳しくはテキレボWEBカタログをご参照ください。

やまいぬワークス@第6回 Text-RevolutionsC-19 - Plag! 

 

◆テキレボアンソロ参加しました!

醤油祭のはじまり | Text-Revolutions

テキレボ恒例、サークル参加者有志によるテーマアンソロジーに今回も参加しました。

今回のテーマは「祭」。最近、個人的にブームが来ているVRゲームものと、持ち前のうす暗い現代ものの芸風を合体させた4000字掌編です。

 

◆試し読みご用意しました

既刊4冊の試し読みを「カクヨム」にご用意しました。

斉藤ハゼ(@HazeinHeart) - カクヨム 

いずれも1万字以上たっぷり読めます。ご興味ありましたらぜひ。

 

◆今回でサークル参加お休みとなります

同人誌即売会への参加は、今回のテキレボ6を持っていったんお休みにする予定です。今回で頒布終了にしてしまう本も出るかと思います。これを機会にぜひお立ち寄りください!

 

◆テキレボ買い物代行のご案内

もし同人誌欲しいけど、即売会に行けないなー! という方向けには、

テキストレボリューションズの

お買い物代行サービス | Text-Revolutions 

がお勧めです。

購入依頼リストを登録すると、テキレボ準備会があなたの代わりにサークルから本を買ってきて送ってくれるという、根性と神秘のサービスです(ただしサークル側の在庫に寄る)

手数料はかかりますが、テキレボは無料配布の作品もたくさんありますので、何かお目当ての作品のついでに、無料配布を片っ端からポチポチすると新しい出会いがあるやもしれません。

7/16みちのくコミティア委託参加します

7/16(日)に郡山で行われる、みちのくコミティアに委託参加します。

頒布物は以下の3点です。

 

「猫の都合をきいてきて」文庫本 224ページ 700円

なかなか進展しない30代男女2二人の軽く淡い空回り。東北出身者の巡る2011年以降の福島・宮城・岩手の旅と帰省。

 

「淡雪」 文庫本 224ページ 700円

北海道×魔法×鉄道 現代ファンタジー小説。仕事を抱えたサラリーマンと、秘密を抱えた自称魔法少女、初対面の逃避行。

 

「あまいものはじめました」 文庫本 122ページ 400円

00年代高校生オタク同士初恋カップル、いとこ同士の三角関係、ガールミーツおじさん、先生と教え子…など現代の恋愛を巡る短編集。

 

 

よろしくお願いします!

4~6月即売会参加予定

あけましておめでとうございます。

今年度1回目のblog更新ですが、いきなり3か月連続即売会参加のお知らせです。

いずれも「やまいぬワークス」で参加します。

・4/1 テキストレボリューションズ5

・4/16 文学フリマ金沢(委託)

・5/7 文学フリマ東京

・6/8 文学フリマ岩手

 

春の新刊

「猫の都合をきいてきて」文庫本 224ページ 700円

なかなか進展しない30代男女2二人の軽く淡い空回り。東北出身者の巡る2011年以降の福島・宮城・岩手の旅と帰省。

秋田出身・眼鏡男子エンジニア数井と、宮城出身・得意な料理は餃子と芋煮(宮城風)のせり子が織りなす、うすぼんやりの旅と日常。
ほやを投げたり、猫をかまったり、ホテルの壁が薄かったりします。

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既刊

・淡雪 北海道×魔法×鉄道×逃避行 文庫本 700円

・あまいものはじめました 現代恋愛短編集 文庫本 400円

・さよなら木霊 北海道×音楽×妄想 文庫本 500円

を持っていきます。

4/1 テキストレボリューションズでは、そのほか無料配布の掌編集や300字SSポストカードなど、無料配布も持っていきます。

ZABADAKカバー大会の思い出#2

ZABADAKカバー大会の思い出、後半の感想です。

 

9.bywyd -ビウィッド-(Vo+Gt,Vo,Vo)「樹海-umi-」「旅の途中」

 カバー大会にはいろんな方がさまざまな思いを抱いて参加されたと思うのですが、その中でも一番切迫したものを感じたユニット。それもそのはずで「樹海-umi-」のメインボーカル甘えびさんは吉良さんを思うあまり、楽屋で泣かれていたらしく……(話は楽屋スタッフから聞いていたのですが、客席担当だったのでどなたかは知らなかったのです) そのお気持ちと歌い上げる7拍子が実にハマりました。

 「旅の途中」では、もう1人の女性ボーカル藤本萌々子 さんが空気を洗うように場を一転。上手く次につながる雰囲気に変わりました。あとボーカルのお二人が使ってた鈴が欲しいです。

 

10.南りこ×ヒースと月夜の音楽隊(Vo,Gt,Acc)「ガラスの森」「Tin Waltz」

 MCの流れで「ガラスの森」は風部も急遽参加。私も最後尾でアンデス吹いてました! アコーディオンの方は右手主体、左手の位置が小峰さんと同じで、そんなところにもZABADAKっぽさを感じたり。ZABADAKの持つ側面のひとつ、トラッドらしさを感じる正統派ユニットでした。

 

11.Aquarism(Vo,Gt)「遠い音楽」「Psi-trailing」

 アカペラグループなどで活動されているボーカルのAYUさん。実力に裏打ちされたその歌声は実にオリジナル。ご自身の解釈とZABADAKへの寄り添いの合わさった2曲でした。

 ちなみに、ビウィッドの甘えびさんと萌々子さん、南りこさん、AYUさんと、歌っている最中の手の表情が豊かなユニットが続いたのも強く印象に残っています。しぐさや所作もまた歌なんですね。

 

12.color of the day(Vo,Vo,Gt,Kb,bs)「満ち潮の夜」「急がないであわてないで」

 鎌倉からやってきた小学校の同級生5人で結成したバンド。色とりどりの衣装や布、帽子に身を包んだ5人が並んだだけで楽しくなります。初々しい女性ボーカルの方と、隣のギターの方が実は来年ご結婚なさるそうでー! それってザバ婚なの? むしろいつから付き合ってたの? 申込時、持ち込み機材の中にiPhoneとあって首をひねっていたのですが、なんとベースの方の楽器はiPhoneでした。

 

13.ヘリオトロープ(Vo,Kb)「TRUTH」「相馬二遍返し」

 実力派ユニットヘリオトロープさん、個人的に前から存じ上げておりました。申込でお名前を見つけたとき「ラスト前はこれだ」と最初から決めてました。ZABADAKライブで言うところの後半の「夢を見る方法」「PACO」なんかで、みんな終わりに向けていくぜー! という転換点のあたり。

 そのパフォーマンスにサウンドチェックの時から楽屋騒然。高坂さんの力強い歌唱とこばひっ師匠のビートのあるキーボード。女性英語バージョンの「TRUTH」で場を制圧し、「相馬二遍返し」で一気に高揚させる。客席からもお囃子の大攻勢。ZABADAKのライブでも聴いたことがないほどのお囃子でした。

 

14.らいらっく(Vo,Vo+Gt,Gt,Kb)「この空で会えるよう」「雲の言葉」

 ライブ主催経験のない「桜組」を、技術的にも精神的にも支えてくださった「らいらっく」のお2人。この2人に「桜組」からピアノの来夢とギターのきかくがサポート。

 男性ボーカルのしんしゃんさんはギターもベースも弾かれますが、やはり真骨頂は歌。3つほどボタンを開けたシャツに吉良さんぽさらしさを感じました。もう一人のボーカルまきのさんがしっとりと歌い上げる日本語歌詞版「この空で会えるよう」からの、二人の歌が曲の途中で入れ替わる「雲の言葉」。空へ人への思いを歌うこの2曲で泣いた人も多かったようです。

 

15.客席参加セッション2(Gt,Gt,Kb,Bs,Andes+Acc,Ch)と風部、客席の皆様「POLAND」

 「風の巨人」のときと同じメンバーで客席参加セッション再び。風部のルーツである「POLAND」はぜひやりたかったのです。私はアコーディオンアンデスを担当。小峰さんばりの楽器早替えにチャレンジ。

 風部がしっかり吹けていることを確認して、アウトロでは自分の笛をマイクから外しました。本番中に急に一人で決めてやってしまったので、他のセッションメンバーには悪いことしました。プログレナイト2014版を思わせる客席のかそけき笛の群れ。オオムラサキの舞う光景が見えたような気がしました。

 

16.ゲストコーナー

 ここからは、ご縁あって来てくださったゲストコーナー。ZABADAKとの共演経験があり、それぞれのZABADAK感がある皆様。サウンドチェックの時から夢のような、今までにない組み合わせのZABADAKが繰り広げられました。

 

松本リョウスケ、木村林太郎(りょんりょんとりんりん、りょんたうろす、木村くんと松本くん? なんかユニット名不明)「遠い音楽」「豊饒祝歌」

 「マサキラ」や「きら☆りん」「ひらばりーず」など、吉良さんは男性デュオのライブも何度も行われていました。その路線の正統継承者と勝手に私が思っているお二人です。松本さんの艶っぽい歌、それを深く支える林太郎さんのコーラスとハープ。これからも続けて頂けると嬉しいです。

 「豊饒祝歌」は、実は私も客席セッション曲として当初運営チームに提案していたのですが選に漏れてしまった曲。それが、お2人が客席の皆様もコーラスを歌ってください、と言ってくださったことで図らずも実現。めっちゃ歌いましたとも。富良野ZABADAKライブを思い出しました。

 

日比谷カタン、松本リョウスケ、木村林太郎「Wonderfull Life」

 これはずるい! 日比谷カタンさんがてらわず真っすぐに歌ったとき、とんでもない破壊力が起きるのは30周年ライブ2日目の後半ステージを観た人はご存じかと思いますが、まさにあの瞬間の再来です。歌詞の一つ一つが刺さる。サウンドチェックでお三方の声が重なった瞬間、泣きました。

 

シークレットゲストみとせのりこ日比谷カタン、松本リョウスケ、木村林太郎「夢を見る方法」「二月の丘」「五つの橋」

  日比谷カタンさんがお声をかけてくださり、みとせのりこさんがゲストとして来てくださいました。最初に話を伺ったときには、もうびっくりしました。私みとせさんがZABADAKのカバーやってた頃のテープ持ってました! 当日まで発表していなかったので、カバー大会参加者でも驚く人多数。もうね、祭りですよ。

 norenwake前も後も知り尽くしたみとせさんの歌はまさに凝縮されたZABADAK。受け取り、繋ぐという強い意志。小樽ライブのとき、こっそりいらしていたみとせさんが吉良さんに呼び上げられて「五つの橋」を歌ったときのことを思い出しました。

 

17.ゲスト+参加者セッション、客席の皆様「Easygoing」

 話は前後するのですが、ゲスト前の休憩時、「楽器の差し入れを貰った…」と主催が大きな紙袋を抱えて楽屋に帰ってきました。中にはたくさんのタンバリンなど。吉良さんが高校時代に組んでいたバンド「欠食ドラ猫団」の方がご来場していて、客席参加セッションではジャンベを響かせてくださったのですが、その方からでした。

 急遽その楽器を客席にお配りしまさに大騒ぎの「EasyGoing」。ステージと客席、歌と楽器が入り混じるカオス。

 ギタスズで吉良さんがやっていた、間奏に「We will Rock you!」を挟むスタイルをカタンさんが見事に再現。間奏に挟むバージョンはいろんなスタイルがありましたが、この日には一番ふさわしい形でした。

 私はアコーディオンを弾いていたのですが、死ぬほど緊張していて、すぐ隣にみとせさんがおるで…ここほんとに現世かな…とか思ってました。

 

18.アンコール「遠い音楽」

 予定にはなかったアンコール。すべてを巻き込むように「遠い音楽」の大合唱。なんかもう全てが嘘みたいに楽しくて、熱気が凄まじくて、そうだ、この場をきちんと撮っておかなきゃ……と、私はステージを降りて写真係に逆戻り。最後列から見るステージは遠い夢のようでした。

 

 というわけで、駆け足でカバー大会の曲感想でした。

ZABADAKカバー大会の思い出#1

オッス、オラZABADAKカバー大会の主催手伝い! ZABADAK30周年記念ファン有志カバー大会では小姑ポジションで雑用をしてたぜ! このエントリでは、カバー大会の個人的な思い出を書きます。

 

つまらない予防線はさておき。今回のエントリでは参加してくださった演奏者13組のうち、前半分について。

 

1.qua-qua(Vo,Gt)「ここが奈落なら、きみは天使」「河は広くても」

 札幌からやってきた「ザバ婚」夫婦デュオ、qua-quaさん。札幌のホテルやレストランなどで活躍されているほか、ZABADAKの北海道ツアーでは物販やPAなども担当。私が吉良さんを追って北海道に行くうちに、いつしかお知り合いに。吉良さんが来る予定だった今年7月の北海道ツアーでお会いした時、遠方からで申し訳ないけどぜひ出てほしいとお誘いしました。この時だいぶ参加者は集まっていたのですが、トップバッターで悩んでいてqua-quaさんが出てくだされれば鉄板だぜ! という邪な気持ちもありました。

 今回は最新アルバムの最初と最後、というわかってる選曲。お二人の歌唱と人柄で明るい会の幕開けを迎えられました。さすが富良野カバー下り大会出場者。

 

2.shijyu(Vo+Gt)「かえりみち」「let there be light」

 ギター歴2年で吉良さんのギタークリニックフル参加者。実はギターを弾き始めた頃から存じております。なので失礼ながらそういう目線で語りますけど、上手くなった! カバー大会合わせで飛躍的に上達していて本当にびっくりしました。吉良さんのTACOMAと一緒に着実に歩んでいってください。

 

3.竹下佳秀(Vo+Gt)「点灯夫」「星の約束」

 1番に申し込んでくださった竹下さん。とても心強く感じました。ルーパーとエフェクターで「点灯夫」と「星の約束」のキラキラさを多彩に表現。ルーパー事故もお約束。サウンドチェック後、ギター弾きがのきなみエフェクター周りに食いついてたのが印象的でした。

 

4.風の人(Vo+Gt)「空ノ色」「遠い音楽」

 風の人さんもギタークリニック参加者でギター歴2年。風の人さんは、前にスタジオに集まって延々ZABADAKをやる会でもご一緒させて頂いたんですが、みんながバカ話してても、おやつを食べてても、ずーっと弾いている。その実直さがよく表れた弾き語りでした。吉良さんより1オクターブ下で歌われていたので、次は「ヒースの丘」なんてどうでしょう。

 

5.Jalan Jalan(Vo,Gt,Cajon)「遠い音楽」「休まない翼」

 ZABADAKファンのボーカルの方が、ギターとカホンの2人を誘っての参戦。カバー大会がきっかけでZABADAKを知る方ができるなんて、やっぱり嬉しいですよね。さわやかで軽やかなトリオ。「休まない翼」の締めくくりは、ZABADAKをずっと聞いてる人間にはできないアプローチだと思いました。

 

6.fleur* feat. Catol(Vo+Kb,Gt)「アジアの花」「Psi-trailing」

 キーボード弾き語りのさゆりさんと、ギターのCatolさんのユニット。新居昭乃さんのカバーで活動されているさゆりさんならではの2曲。繊細な歌声とキーボード、アコースティックギターが絡み合ってはかなげな世界に包まれました。

 

7.桜組(Gt,Gt,Kb,Kh+Andess)「桜」「グスコーブドリの伝記

 主催ユニットです。ギター歴3年のバンマスあぷろ率いる、ギター2本、キーボード、アンデスと鍵盤ハーモニカの妙なバンド。カバー大会屈指の面白枠ですが本人たちはいたって真面目。「桜」をやるために集まった人たちで結成されたので「桜組」というのですが、「桜」をやるのにこの編成を選んだバンマスを小一時間問い詰めたい

 私はアンデスと鍵盤ハーモニカでいろいろ変なことをやっていたのですが、譜面台で客席に見えてなかったみたいです。来年の目標は「譜面台の高さを下げる」にします。

 

8.セッション1(Gt,Kb,Bs,Andes,Rec,Ch)と風部、客席の皆様「風の巨人」

 「桜組」に「らいらっく」のお2人に加わっていただき、客席参加型セッション。私はアンデス担当。

 カバー大会をやるなら、客席参加の風部(ZABADAKライブで客席から笛を吹く人たちの通称)曲は絶対やりたい! と目論んでおりました。私自身、今まで風部として何度となく客席で笛を吹いてきましたが、この客席の笛はステージにどんな風に聴こえているのか、ずっと知りたかったのです。

 客席のあちこちから立ち上って来る笛の数々。1本1本はピッチも不安定で迷っているところもある。でもそれらをステージで受け止めると不協和音には聴こえないんです。不思議な調和がある。1本1本に自分のできる範囲で精一杯吹く意思がある。

 まきのさんのコーラスに先んじるように、あるいは連れられて、客席の歌声が立ち上がる。地の底から沸き上がってくる熱気にふわっと包まれる錯覚。

 これが、ZABADAKが聴いていた音なんだ。すごく幸せな瞬間でした。

 ただ客席の熱気にあてられて、ステージ笛チームのピッチが上ずってしまいました。この辺は経験不足のなせる業で大変お恥ずかしい。

 この「風の巨人」の楽譜、リコーダー部とアンデス部は私が書きました。風部が当日吹く音を予想し、ステージ側の笛とハモるパートがあるのがオリジナルとの違いです。風部が入ることで初めて完成する仕様。本番それが上手くはまったので風部最高だぜ! と思いました。

 ちなみに本来はエレキギターがもう1名加わる予定だったのですが、のっぴきならない事情で欠席。いつかフルメンバー版「風の巨人」を実現したい。

 

後半はまた後日!