冬の虹不安と遊ぶ笛と飛ぶ #1

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 もっと、あまさず聴けたんじゃないか。もっと、うまくできたんじゃないか。帰ってきてだいぶ経つ今でもそんなことを思い続けている。

 11月20日から11月23日まで、今年もライブを追って北海道へ行ってきた。その4日間のことを、少しだけ書いていく。


2015年11月20日(金)旭川

 旭川行の小さな飛行機は甲高い風の音を響かせながら高度を上げていく。その機内で、笛の練習をしていた。何度も繰り返し宙で指を動かす。エア笛。違わず弾けるよう、迷わず息を吹き込めるよう。
 「鞦韆」という、懐かしいのに実在しない国の童謡のような歌。鞦韆、ぶらんこ、の名の通り揺れるメロディライン。吹くのはもう問題ないはずだ。けれど自信はない。

 今回ついていくのは、ZABADAKのギタリスト吉良知彦さんと、アイリッシュハープの木村林太郎さんのユニット「きら☆りん」の北海道ツアー。いちばん好きな組み合わせのユニットなのだけれど、年に一度程度しか現れない。それもだいたいが北海道・東北絡みのツアーになる。
 でも、それでいい。いちばん好きな組み合わせのユニットを、大好きな寒い土地で聴けることが、年に一度もあるなんて。

 冷える、雪が降ると聞いていた旭川はただ涼やかだった。ちっとも寒くない。面白くない。西武デパートに寄る。手袋を買う。旅先でちょっとした使うものを買うのが好きだ。この手袋も、これから使うたびに旭川のことを思い出すはずだ。
 寒くないが手袋をはめる。今日の会場、神楽市民交流センター、通称「木楽輪(きらりん)」は、旭川駅から橋を渡って行く。川の上にだけ冬がある。

 場内は二階まで吹き抜けの高いアーチが目につく。旭川の木材を活かした木造らしい。

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 二階の控室から二人が降りてくる。階段の一番下で、吉良さんがはにかんで笑う。今日の構成は三部構成。
 まずはハープの林太郎さんのソロから。はじめての会場、ツアーの初日、その第一音、ハープの音色が伸びる。マイクやスピーカーは一切ない。会場の形や材質の力だけで、広がっていく。音が太くなるのではなく、細い音が細いままに何周も巡る。チリチリと鳴る暖房の音さえも一緒に巡っていく。
 きら☆りんが木楽輪でライブをやる、ってなんの冗談だろうと思っていた。けど、この場所は、間違いなくこのユニットに合う。

 スコットランドアイルランドに由来する歌、物語や詩に題材をとった歌。林太郎さんの音はどれも水辺に吹く風のように、やわらかで湿りがある。

 二番手の吉良さんのソロコーナーは、「他人のうた」特集。クリムゾン、ELPケイト・ブッシュピンクフロイド、そしてビートルズと、ZABADAKのルーツが惜しげもなく繰り広げられる。1本のギターと1つの喉で、室温が何度も上がったかのような錯覚を覚える。

 第三部は二人が合わさって、主にZABADAKの曲。駆け上がっていく吉良さんの声、空間を満たす林太郎さんの声。マイクがなくても二人の歌と音は部屋の隅々まで届く。

 二人の重なりを堪能している半ば、「この中で笛をおもちの方は……」と客席に呼びかけがかかる。ZABADAKでは稀にある客席参加型曲。事前にtwitterで予告をいただいていた。それが「鞦韆」という曲だ。
 andes25F、アンデスを構える。アンデスは鍵盤型の笛だ。客席を見れば同じように笛を持ってやってきた人の顔が見える。数える、音をイメージする。今日のステージの音に対してこの笛の数、音量はどうか。控えめにするか、それともしっかり吹くか。吹きかたはCDに似せてタンギングを強めにするか、響くよう柔らかく息を入れるか。
 去年も、このツアーで客席から笛を吹く機会があった。その時は何もないところへ身を投げるような不安があった。今年は同じ飛ぶのでも、船に並んで飛ぶ海鳥のようでありたい。
 曲が終わって、微妙な出来に頭を抱える。

 気持ちを入れ替える。弦の震えに目をこらす。1日目の音が終わっていく。

 終演後、「鞦韆」で音が迷っていたCさんに楽譜を渡し、音の違ってたところについて話す。Cさんとは、以前遊びのコピーバンドで一緒に演奏したことがある。音に対しての傾向や感覚は、まったく知らない人よりかは、わかる。でも、その気安さからきつく言い過ぎたかもなあ、と後にホテルで枕を抱える。

 もう1人の笛チーム、Sさんと駅まで帰る。別れて旭川の街を歩く。やっぱり寒くない。手袋を外す。コートの前を開ける。2度だと表示されている。寒く感じられない。
 明日は、もっと寒くなればいい。

 

旭川の思い出