歌、ディーゼル、鳥、北海道9日間#10

8日目 6月14日(土) 天売-羽幌ー留萌ー滝川ー富良野

 窓のすぐ外で風が荒れ狂っている。朝4時30分、早朝に目が覚めるのが定着化したようだ。午前中の船が欠航すれば、富良野のライブには間に合わない。

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風にあおられながら飛び立つオオセグロカモメ

  フェリーのサイトを確認する。気象予報のサイトをいくつも見る。twitterを眺める。ニュースサイトを見る。繰り返す。わからなくて落ち着かない、けれど、世間から切り離された感覚はない。ネットに繋がっているからだ。携帯電話を使う前ってどうやって暇をつぶしていたのだろう。覚えていないわけじゃない。ただ、もう感覚は失っている。

 7時過ぎにフェリーの運航予定が決まる。9時40分の高速便は欠航、10時25分の通常便は運行決定。よろしい。自動的に予定が決まる。

 朝食を摂る。同じ船で帰る鳥屋さんといくらか話をする。珍鳥の話がメインで、疎い私は拝聴するばかり。情報交換が成り立たなくて面目ない。

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宿の前にいたオオセグロカモメ。暴風で羽毛が膨らんでいる。

 

 チェックアウトをし、港まで送ってもらう。

 

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フェリー乗り場脇のオロロン鳥ウミガラス)の像。後ろの看板の世界的海鳥繁殖地、という単語が面白い。

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船が入港してきて、安堵する。

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船から細い紐が投げ下ろされる。細い紐の先には太いロープがついている。

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船底の2等船室。かなりの揺れで、寝転がっていたら船酔いに。

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船室の窓から見た焼尻の岸壁。

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羽幌フェリーターミナルに来た連絡バス(沿岸バス運行)

 

 天売から羽幌へ、羽幌から留萌へ。

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増毛は留萌本線の終着駅。毛が増えるかも! どこの毛とは言ってない。

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留萌より深川を目指すキハ54。

 

 留萌から深川へ。3度目の留萌本線。ここでやっと人心地つく。ここまでくれば富良野には間に合う。富良野で待っているはずの歌や、東京から遠征してきているだろう人たちの顔をぼんやりと思う。

 淋しい、身の置き場がない、不安。そんな気持ちばかり浮かぶ。でも、やっぱり旅をするなら一人がいい。辛さもトラブルも、綺麗なものも嬉しさも、全部自分が見つけて、自分が出会った、私だけのもの。だからこそ、写真を撮って、識別をして、言葉に変えて、誰かに渡そうという気になる。

 

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深川駅にはけっこう前から自動改札がある。

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入線を心待ちにする少年。

 

 深川から滝川へ。滝川で最後の乗換。根室本線に乗って富良野を目指す。ラストディーゼルはキハ40。

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寝過ごしたら峠を越えて、帯広平野まで行ってしまう。

 

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芦別を過ぎて、ベニヤ会社の木材集積所

 

 16時32分、富良野着。

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富良野着。富良野といえば、北海道のへそ、だそう。

 

 富良野を訪れるのは3度目になる。見慣れた駅前、イメージできる道のり。知っているところを歩く安心と退屈。宿に荷物を預け入れ、即座にライブ会場へと向かう。

 

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富良野は飲み屋街もへそ推し

 

 市街地を抜け、空知川にかかる五条大橋を渡れば、あとは会場までは一直線。

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街路灯が少ないので、毎回懐中電灯を用意している

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本日のライブ会場。野良窯さんに来るのも3度目。

 

 今日より、小峰公子さん(以下小峰さんと表記)がライブに合流。zabadakのボーカリストにしてアコーディオン奏者、作詞家で、笛もふけばグロッケンも叩くマルチプレイヤーである。ライブのスタイルもそれに従って、Zabadak(吉良さん、小峰さん)+Ranocch(林太郎さん、菅野さん)、という形に変わる。

 

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開演前。客席からみていつも左側にあるハープがこの日は右側。

 

 最初に、Ranocchの2人による2曲。北海道に来る前、東京中目黒のライブでは「曲名、いい案があったら教えてください」と仰られていた菅野さん作曲の新曲は、この日は「旅」というタイトルで紹介されたいた。この北海道を巡る過程で決まったのだろうか。

  吉良さん、林太郎さん、菅野さん、小樽、留萌と豊富と回ったキラリンカンで「夕焼け」 この曲は、このツアー全体を通じてのテーマソングのような存在。そして、これが最後のキラリンカンとしての歌でもある……と思うと、弦の震えが止まったあとの空気までも消えていくのが惜しい。

 入れ替わって、吉良さん、小峰さんによるZABADAK。「うたがばしょにおいわいされている」とかつて言われた、この富良野野良窯の大気をまとって小峰さんが歌われる。「相馬二遍返し」にただ圧倒される。

  「相馬二遍返し」は、相馬が飢饉で苦境に立った後、相馬のもともとの良さを伝えるためのピーアールソングとして作られた、とライブのMCで伺っている。

 一昨日、サロベツ原野の宿で出会ったご夫婦は「宮城の自慢をさせてください」と前置きしてから、伊豆沼のマガンとヒシクイの塒立ちがいかに素晴らしいか話してくださった。震災でいろいろあったけれど、ぜひ宮城にきてくださいね、と仰る姿に「相馬二遍返し」を思った。
 でも、私は、その二人に自分も宮城の出身であるとは最後まで言い出せなかった。「震災以来、やっと今日、双眼鏡を持つ気持ちになれた」と、仰られていた当事者たるその方々に対して、宮城を離れてもう10年以上経つ私が、なにを言うことがあるのだろうか。そのくせ、心の中に弱りくすぶる部分がある。自分は東北の生まれ育ちだというかすかな矜持がある。

 福島県郡山市出身の小峰さんが歌う「相馬二遍返し」は、自分の一番ぐずぐずした、腐ったスポンジみたいなところを貫いてくる。

 

 ZABADAKに林太郎さんが加わって「WonderfullLife」、そして菅野さんが加わって4人が揃う。2つの鈴、3つの声、4つの楽器。終わらなければいいのに。この4人のツアーは明日もあるけれど、私は、明日で帰らなくてはいけない。終わらなければいいけど、終わりは必ずおとずれるものだから、せめて、ただ、隅々まで余すことなく受けて持ち帰りたい。

 声が近くに感じる、揺れる弦がくっきり見える。窓の外が暗くなっていく。

 jigセットは終盤大詰めの合図だ。おまつりの歌としてライブでは定番の「EasyGoing」がちっとも楽しくない。手拍子に気がこもらない。頭ではもうおしまいだよってわかっていても、頭から下がわかっていない。

 アンコールの「遠い音楽」で、今日の歌が静かに去っていく。

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終演後

  

 東京から来た方々と富良野駅前でご飯を食べる。コップのふちぎりぎりまで満ちた水が表面張力でこぼれないように、誰かと話している間は大丈夫だった。けれど、宿の部屋に入ったら、もう、おしまいだということに押しつぶされてしまった。ベッドは出かける直前に広げた荷物でいっぱいで、角で丸まる。もうこのままでいいやと捨て鉢になる。

 明日は旭川空港より羽田へ飛ぶ。帰るのである。