歌、ディーゼル、鳥、北海道9日間#8
7日目 6月13日(金) 豊富ー羽幌ー天売 前編
細切れに眠って、3時30分に目が覚める。もう隣室から気配がする。やはり鳥屋さんの朝は早い。
前日の夕方に撮った、宿よりの眺め。
装備を整え外に出る。宿の周りは霧でけぶっているが、あふれんばかりの鳥の声。ツツドリ、カッコウ、エゾセンニュウ、その他、その他、その他。しばし立ちすくむ。周囲にはこんなにも豊かに声と気配があるのに、満足に聞き分けられない。宝の山に来ても何も持ち帰れない。焦りでいっぱいになる。
周囲の木々や草むらから、鳥の声、気配が降ってくる。
わかる、識別できる、ということはそんなに大切だろうか。そこに拘泥しない人はなんの焦りもなく「綺麗な鳥の声だな」と心ゆたかに満足して、それで素敵に過ごせるのではないか。
だけど。以前、一緒に鳥を見た人たちの顔が浮かぶ。「サロベツで鳥の声を見ましたよ」と言えば、必ず「何がいたの?」と問われるだろう。それを「なんだかわからないけど素敵な鳥の声だった」では……結局何も伝えられない。識別できなければ、せめて識別の手がかりを伝えなくては。
自分の経験を、伝えたいんだと思う。伝える方法はたくさんある。音に変える人。詩歌に変える人。識別もまた、経験を伝えるための大切な方法なのに。
車に荷物を運び込んでいた鳥屋さんが、私の格好を見て「あれ、鳥屋さんだったの」と笑う。ハーネス付きの双眼鏡に、長玉をつけた一眼レフ。そうとしか見えないだろうが、こんな識別の曖昧な自分が鳥屋だとは思えない。声をかけてくださった方なら、きっと周囲の音、気配をすべて識別して豊かに伝えられるのだろう。
近くには牧場もある。
車で出立する彼らを見送り、海へ向けて歩き出す。雨は降っていないが、空は実に重たげだ。
ニュウナイスズメのペアが囀っている。ふつうのスズメもいる。オオジシギのオスがけたたましい音を立てて天から急降下してくる。オオジシギは別名雷シギともいい、音を立ててメスの気をひくのだという。
羽を小刻みにはばたかせ、加速しながら降りてくるオオジシギ
オオジシギは体長約30センチ。オーストラリアから9千キロ以上の距離を渡り、ここで繁殖をする。
湿原というだけあり、あちこちに水場がある
1キロも歩くと、海が見えてくる
稚咲内漁港付近
漁港についたあたりで雨が降り始めてきた。来た道をとって返す。
しかし帰り道に限って鳥が出る
雨の切れ間にホオアカ
宿の看板犬。すごく愛想のいい子なのに、カメラを向けるとご覧の表情。
宿のオーナーに送ってもらい、再び豊富駅まで戻ってくる。まずは沿岸バスを使って日本海沿いに南下し、羽幌まで行く。8時20分発、留萌行。
沿岸バスといえばこれ。萌えっ子フリーきっぷ。擬人化ではなく、鉄道むすめのタイプ。
せっかくのオロロンラインなのにずっと雨
運転手さんが座席に置いたスポーツバックの中から、ラジオが流れ続けている。外は降ったりやんだり。バスはさほどの揺れもなく、軽快に走り続ける。こうも揺れがないと、かえって眠たくなる。
羽幌に近づいたころ、雨があがる。
10:45、羽幌の沿岸バス本社ターミナルに到着。本来の予定であれば、11:40羽幌発天売行の羽幌沿海フェリーに乗車する予定だったのだが……
高速船、欠航!
なにせ連日天気は悪い。道南では大雨で鉄道が止まっているともいう。もともと晴れ間らしい晴れ間など、ほとんど見たことのない北海道ツアーだ。そんなこともあらあね。
しばし待合室で時間を潰したが、待っているのにも飽きたのでフェリーターミナルまで歩いていくことにする。
古びた商店の並ぶ羽幌の町中。
天売のウミガラス推しのマンホール
久しぶりの青空。しかし、風は強い。
フェリーターミナルへ続く道を行くと、カートがガラガラとバカみたいに鳴る。
フェリーターミナルそばの土産物屋。由来がすごい。
フェリーターミナルも真新しい雰囲気
フェリーターミナルに食堂があるらしい、と聞いていたのだが、まだ繁忙期ではないせいかお休み。非常食のカロリーメイトでしのぐ。
観光案内所で天売の天候など聞いているうちに、通常便の運航が決まった。行くしかない。